コラム FM小田原 腸の病気
腸の病気について
担当 石井和義（おだわら動物病院）
犬や猫では、消化器系の病気は日常的にとてもよく認められます。飼っている犬や猫が、急に下痢になった、嘔吐している、食欲がなくなった、などの症状を示すのを経験されたことのある飼い主さんは比較的多いのではないでしょうか。
もちろん全てが腸に関係している病気であるとは限りませんが、それでも腸の異常でこのような症状が発現することは多いのも事実です。今回は、腸の病気の中でも比較的よく認められる代表的なものについて、簡単に解説をします。
■ 腸炎（小腸炎・大腸炎）
腸というのは胃から肛門までを連絡する消化管の総称です。胃に近い方（上部）の腸を小腸、肛門に近い方（下部）の腸を大腸と呼びます。小腸はさらに十二指腸、空腸、回腸に分類され、大腸は盲腸、結腸、直腸に分類されます。構造は人間と同様で、人でみられる病気は動物でもほぼ同様に発生します。腸炎は急性と慢性に区別されますが、腸炎という名称は腸に炎症を引き起こす病気の総称であり、その原因により病名は異なります。腸炎の原因は様々で、ウイルスや細菌によるもの、食事によるもの、異物や中毒によるもの、神経性のもの、腫瘍性のものなど、病因により治療法や予後はかなり異なってきます。特に動物の場合に大切なことは、人のように自分で異常を訴えることができないため、しばしば病気の発見が遅れがちになると言うことです。飼育している動物が急に食べなくなった、下痢をし始めた、嘔吐が止まらない、などの症状を示した場合は、できるだけ早く動物病院で診察を受けるようにして下さい。
■ 腸閉塞（物理的閉塞・機能的閉塞）
腸閉塞はイレウスとも呼ばれ、犬猫でもしばしば認められる疾患の一つです。腸閉塞は、物理的な閉塞と機能的な閉塞に大別されます。物理的な閉塞とは、異物の誤食によるもの、腸捻転や腸重積によるもの、腫瘍性のものなどがあげられます。機能的閉塞とは、腸管に物理的な異常がなく、腸を支配している内臓の神経障害により腸の運動障害が起こり、腸の内容物が通過障害（停滞）を起こしてしまう場合を言います。いずれの場合も、一般的に認められる症状としては、嘔吐、食欲不振、下痢などがあげられます。犬の場合は特に異物の誤嚥がよく認められますし、猫では紐や糸状の異物また毛玉（毛球）による腸閉塞などがしばしば発生します。診療をしていると、飼い主さんが注意することで避けられる誤飲・誤食などのトラブルにしばしば遭遇します。赤ちゃんと一緒で、犬や猫は何でも口にしてしまうということを日頃から心に留めておく必要があります。また腸に発生する腫瘍は、発見が遅れがちになる疾患の一つです。特に高齢の動物で、先に挙げたような症状がもし認められた場合には、やはりできるだけ早く動物病院を訪れていただきたいと思います。
■ 巨大結腸症
この病気は、特に猫でよくみられます。その原因は先天性のものと後天性のものに分類されますが、事故やけがで骨盤内のスペースが狭くなることにより発生する場合、また食事の与え過ぎによる肥満や環境的なストレス、また物理的・神経的・代謝的異常などによる排便障害が原因で発生する場合が比較的多く認められます。症状としてはいわゆる便秘がちになり、何日も便が出ない、あるいは排便に異常に時間が掛かる、排便時に痛がって鳴く、などがよくみられます。症状が軽い場合は内服薬や浣腸などの処置により改善する場合もありますが、再発や悪化が多いため、最終的には手術により悪くなってしまった部分の腸を切除しなければならない場合もあります。過去に事故や怪我で骨盤を損傷したことがある、明らかに肥満体型で殆ど動かない、食事はよく食べるが毎日きちんと便が出ない、そのような猫ちゃんは特に注意が必要です。
■ 腸の腫瘍
犬や猫でも、人間と同様に小腸や大腸に悪性の腫瘍が発生する場合があります。他の部位の腫瘍と比べると発生率はやや低いものの、それでも癌に冒されて命を落とす動物も少なくありません。腸に発生する代表的な腫瘍としては、腺癌、悪性リンパ腫、軟部組織肉腫などが挙げられます。腫瘍の発生部位や大きさ、種類、経過等により症状は様々ですが、やはり元気食欲の不振や嘔吐、下痢などの症状が一般的によく認められます。他の疾患もそうですが、お腹の中に発生する腫瘍については特に、定期的な健診や日常生活における注意深い様子観察が、早期発見の決め手となります。早期に発見し、適切な治療を行うことにより根治できる腫瘍も少なくありませんので、動物病院で定期的な健康診断を受ける習慣をつけておくと良いと思います。
