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コラム FM小田原 がんについて(1)

腫瘍について ( PartⅠ)

担当 石井和義(おだわら動物病院)

腫瘍とは、組織や細胞の一部が制御を失って異常に増殖した状態の総称です。腫瘍と聞くと何か不気味な塊を連想しますが、腫瘍の中には白血病のように、腫瘤を形成しないものも含まれます。腫瘍の中には良性のものと悪性のものがあり、一般的に言うと悪性腫瘍ほど進行(成長)が早く、周辺の組織に浸潤しやすく、他の臓器にも転移しやすい傾向があります。

少し専門的ですが、腫瘍 = 癌ではなく、悪性腫瘍のうち上皮系の細胞から発生したものを「癌」、非上皮系の細胞から発生したものを「肉腫」と言い、これらは明確に区別されます。上皮系細胞というのは主に胃や腸、腎臓、肝臓、皮膚などを構成している細胞であり、非上皮系細胞というのは筋肉や骨、血管などを構成している細胞を言います。一般的には肉腫のことも「癌」と言う総称で呼ばれることが多いのですが、癌と肉腫の症状や特徴はかなり異なるため、それらは病気としては全く別のものとして扱われます。

一般的に皮膚や顔、手足などのように目で見てわかる体表の「できもの」はすぐに気がつくのですが、内臓や胸、頭など、体の中に発生する腫瘍は、動物の場合には特に発見が遅れる傾向にあります。それは言うまでもなく、動物は人間のようにあそこがおかしい、ここが変だ、などと自分の身体に起きている異常を伝える手段がないからです。動物の場合、腫瘍性疾患を早期に発見するためには、日頃から注意深く動物の様子や行動を観察し、定期的に病院で診察を受ける以外に方法はありません。しかしながら、初期の腫瘍は血液検査やレントゲン検査などで調べても異常が認められないことが多く、腫瘍を診断するための特別な検査方法がないということも、発見が遅れる一つの要因となっています。

腫瘍性疾患は、年齢を重ねると共に発生率が高くなります。しかし、若い動物に腫瘍ができる場合も少なくありません。身体の表面で一部だけ盛り上がっている場所があったり、そこだけ他の所と色が異なっている部位などがある場合には、注意が必要です。動物の腫瘍は、初期には無症状のことが多いため、目で見て分かる異常が現れた頃には病状がかなり進行してしまっていることが少なくありません。もし体のどこかに「しこり」を発見した場合は、「まだ小さいからもう少し様子を見てみよう」という考え方は、一番危険ですので絶対にしてはいけません。

腫瘍性疾患の場合は特に、早期に発見してできるだけ早く治療することが、他のどの病気よりも重要です。病院で診察を受けて腫瘍でないと分かれば、しばらく様子をみても良いと思います。しかしもし、そのしこりに腫瘍の疑いがある場合には、良性か悪性かに関わらず、できるだけ早く治療を受けることが大切です。腫瘍性疾患においては、「小さいからこそ今のうちに治療しよう」という考え方が必要です。それは、もし仮にそれが悪性腫瘍だったとしても、早期に治療を行えば完治する確率は飛躍的に向上するからです。私の経験でも、様子を見ているうちにどんどん腫瘍が成長し、飼い主さんが心配になって病院へ連れて来た時には、完全に治すにはもう手遅れになってしまっていた、というケースが沢山あります。

腫瘍の治療には大きく分けて、外科的治療、内科的治療(抗癌剤やサプリメントetc.)、放射線治療などがあり、これらを単独もしくは組み合わせて治療を行います。人の方では最近、温熱療法や電磁波を利用した治療、また血栓療法や自分の血液を利用した活性化リンパ球療法、免疫療法など、新しい治療法が年々増えてきています。しかしながら、動物医療においてはそれらの新しい治療法はまだまだ導入が進んでいないのが実状です。

近年、腫瘍の治療において、QOL(クオリティー・オブ・ライフ)を重視する考え方が主流となってきました。これは、生活の「質」に重点を置いて治療を行おうという考え方です。寝たきりで食べたいものも食べられず、ただ生きているだけのような状態(生命の“質”が悪い状態)で長生きをするよりも、たとえ短い時間でも痛みや苦しみがなく、好きなもを食べ、比較的穏やかな状態(生命の“質”が良い状態)で最期の時を過ごそうというものです。これは飼い主さんの考え方にもよりますが、動物医療では特に重要な考え方ではないかと私は思います。

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